ギフト

ギフト思考と幸せの関係

幸せとは根拠を持つこと

病をギフトと言えるようになって、しばらく経ってからのことです。

陽だまりの中で目を細めて深呼吸をしていると、これまでに感じたことのないような豊かさとありがたいという思いが、吐く息とともに体全体に広がり、心が満たされていることに気がつきました。
そして、つい「豊かだなあ」と声を漏らしていました。

病気になる前の私は、深呼吸をしてそれに近い感覚になることはあっても、これほど深いものではなく、ましてや感謝の気持ちが出てくることはありませんでした。

自分が何をしていたら心満たされるのかを知っていると、いつでもそこに戻って満ち足りた気持ちになれます。
その「すること」のハードルが低いほど戻れやすいので、その状態を長く続けることができます。ギフト思考によって、感謝する領域が広がり、感度が上がるほど、このハードルがどんどん下がっていきます。

「幸せ」とはどういうことでしょうか?

幸せと感じる瞬間は人によりさまざまで、これだとひとつにすることは難しそうです。
しかし、生まれてこのかた不遇を経験したことがなく、誰もが羨むような幸せの中にだけいる人がいたとしたら、その人は幸せと感じることができるでしょうか?

ヴィクトール・E・フランクルさんは、著書(1)の中で
「幸せとはその根拠をもつこと」
と書いていますが、そのような人は、根拠を挙げることができないのではないでしょうか。
するとどうやら、幸福を感じるためには、逆の状態を経験する必要があるように思えてきます。

人が色を感じる際には、網膜にある赤・緑・黄それぞれの光の波長に対応する視細胞が、各色の相対的な興奮の度合いを脳に信号として送り、脳が色付けしているのだそうです。
自分が持っている「相対的なものさし」で差異を感じ、分類・評価するのが、人間が生得的に持っているやり方なのでしょう。

人が感じる幸せも同じ原理であるとすれば、どうしても比較するものが必要になります。

あなたが困難に遭遇していて辛いと思っているこの瞬間は、実はこの自分のものさしのマイナスの値を大きくしていることにつながっていると思います。

つまり、同じくらい幸せな出来事がやってきたとしても、深い底を経験しているので、幸せの根拠はたくさん数えられ、幸福の度合いもずっと大きく深くなるはずです。

真夏にやっとありついた一杯の水にこれまでにない美味しさと喜びを感じるように。
より高い地点に到達するには、一度膝を曲げてかがんでからジャンプをするように、あえてためをつくっていると言えないでしょうか。

人生をより深く味わい、幸せを噛みしめるスパイスとして、また次へステージへ進むための課題や登竜門として、逆境や困難があるとは言えないでしょうか。

幸せはそれ自体を求めてはいけない

一方で、
「幸せはそれ自体を求めると幸せになることはできない」
と二十世紀を代表する哲学者のバートランド・ラッセルさんは語っています(2)。ミイラ取りがミイラになる、と同じパラドックスです。

そうではなく、自分の外側に求めることが必要であると説いています。
自分自身ではなく、自分以外の事物に興味を向けたり、貢献の対象にすることが幸せにつながる、ということです。

人生の困難の中にいると、感情や思考の方向は、自分自身という内側だけに向いてしまいがちです。
そして、果てしないネガティブなループからなかなか出られなくなってしまうことも多いと思います。

そこから抜け出すきっかけは、「ギフト思考で、みんなちがって、みんないい」の記事でも少しご紹介した「価値観」と「情熱」です。

特に「価値観」は、すでに日常的にやっていることの中にあるので、努力やモチベーションは必要ありません。
けれども、それは他の人がやろうとしたら努力やモチベーションが必要なことであったりするのです。あなたにとっては簡単でとても自然なことなのに、です。
しかも、対象が価値観に沿ったものとなると、ハードルがいくら上がっても、あなたは自ら喜んでそれにチャレンジしたりもします。誰もあなたを褒めたり、誰かから報酬をもらったりしなくとも、です。

他者の承認や感謝、愛を必要とせずに、これほど自分自身を駆り立たせてくれるものが他にあるでしょうか?

困難や逆境の時に、この「価値観」が指し示す「自分以外の事物」に関心を向けることはとても簡単でありながら、乗り越えるためのきっかけとして、力強く働いてくれるのです。
そして、それはやがて、ラッセルさんが言うような「幸福」につながっていきます。

今後書いていくギフト思考のステップの中には、つい自分の内側に向いてしまう矢印を、自然発生的に外側に向けて、あなたを無理なく無駄なく力強く駆動してくれるツールもご紹介していきます。

太陽がまた昇るように、雨は必ずあがるように、冬の次にまた春がやってくるように、あなたは困難を乗り越えられます。
暗闇の寂しさに身を丸め、雨の冷たさに身を震わせ、冬の寒さで凍えたことのある人のために、次のステージで温かに祝福される瞬間が予め準備されています。

そして、今ここにあることに心から感謝し、新たな舞台で待ち受けている目標やビジョン、生きがいに心躍らせながら、満たされる時がやって来るのです。

(1) 意味への意志(V・E・フランクル著、春秋社)
(2) 幸福論(バートランド・ラッセル著、岩波文庫)